リハビリとトレーニングの方法A
万が一、ケガをしてしまったときには、復帰を焦らないことが肝要だ。監督やコーチなど周囲にいる人が、負傷した選手に精神的なケアを施すことが、非常に大事なことだ。
ケガは選手が一人で孤独に耐えて、治すものではない。この大前提をいま一度踏まえながら、ケガ別のリハビリトレーニングをチェックしていこう。
●打撲の治療とトレーニングまで〈打撲〉
打撲する箇所の中で一番多いのが、太ももの外側にある「外側広筋」。強い徳撃を受けた場合には皮下出血が起こり、痛みのためしゃがみこめないこともある。最初はしっかりとRICE (安静、氷冷、圧迫、高挙の意) の処置をすることが大事だ。最初の処置さえしっかりしておけば、痛みや腫れといった症状は1〜2週間で引くことが多い。打撲による長期戦線離脱はほとんどない。
ケガが完全に癒えたかどうかを確認する方法は、患部を触ってみて、しこりがあるかを確かめること。患部のストレッチングと屈伸を行って、痛みの程度をチェックすることが不可欠である。このように患部の状態をチェックしながら、トレーニングメニューの負荷をコンートロールしていく。
スムーズに競技復帰したければ、受傷直後の1〜2日目は別メニューで調整するのが望ましい。腫れや痛みのある時期は、プールエクササイズを行うといい。水の浮力がうまく利用されて、早期回復を図ることができるのだ。
全体練習への復帰に当たっては、トレーニング前のホットパックをお勧めしたい。患部を温めると血行が促進され筋温が高まるからだ。気温の低い冬は治りが遅くなりがちなので、プロの選手たちは予防策としてワセリンを塗ったりしている。最近は市販の軟膏も改良が進んでおり、保温+マッサージ効果を求めて使う選手もいる。そんな配慮も大事である。
さらにいうと、完全に痛みや腫れが引くまでは、対人プレーやセットプレーの練習は避けるべき。フィジカルコンタクトがあると患部をかばい、別の部分の障害を起こしてしまう可能性があるからだ。
セットプレーだけでなく、ケガの部位によってはシュート練習なども加減が必要だ。たとえば、右利きで左足太ももを打撲している選手は、ロングキックやシュートなどのプレーで思いきって踏み込んだりしてはならない。ムリなトレーニングは、治りかけた症状を再び悪化させかねない。
普段、自由にできることがやれなくなれば、どんな選手でも精神的にもダメージが起こる。打撲の場合軸足に力がはいらなくなるから、キックの精度も落ちる。それでプレーすると、うまくいかずにもっと落ち込む可能性がある。いずれにせよ、痛みや腫れが引くまでは、絶対に100%の力でけらないことだ。
どんなケガでもそうだが、自分の体と相談しながら負荷を調整していくのが大切だ。指導者も負傷している選手を放っておかず、「痛みはあるか」、「じっくり治せ」などと言葉をかけ、精神的なリハビリも施してもらいたい。指導者やコーチに気遣ってもらうことは、リハビリ中の選手にとって何よりの良薬となるはずだ。
●痛みが長引きやすい内転筋〈内転筋痛〉
Jリーガーにも数多く見られる内転筋痛。重症は少ないものの、痛みは長引きやすい。サッカー選手にとってはやっかいなケガの一つといえるだろう。特に左利きの選手は、左足しか使わない傾向が強いので、内転筋を痛めやすいというデータもある。要注意だ。
痛みが発生する原因は、シュートやクロスボールなど同じようなキックを繰り返すこと。ポジション的にはストライカーやアウトサイドの選手に多く発生する。過度のトレーニング、同じようなリアクションの動きには注意が必要である。痛みがあるのに我慢してプレーを続けると、スポーツヘルニアに発展しかねない。
1年の中で内転筋痛が起きやすい時期を見ると、シーズンインの頃が圧倒的に多い。Jリーグの場合だと2から3月ということになる。小・中・高校生にオフシーズンというものはないが、打撲同様に冬場はいっそう気をつけるべきだろう。
治療の方法は、軽度ならまずRICEの処置を施すこと。問題がなければエアロバイク、ランニングといった軽いメニューからスタートする。インサイドキックで痛みが出たり、ボールを使った練習が思うようにできないときは、痛みが治るまで痛みが発しないレベルでのメニューで行う。
復帰の目安は、ボールを太ももの内側に挟んで力を入れたときに痛みが走るかどうかがポイント。痛みが収まったら、次のようなリハビリメニューを開始する。
@ヒザのあたりにボールを挟んで、20〜30秒間、ギュッと力を入れる(アイソメトリックス・エクササイズ10セット、写真1)
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写真1 |
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Aゴムを足の外側から内側に引っかけ、横にあるポールや机などにくくりつける。この状態でイスに座り、足を内側に引き寄せる(10回×10セット)
B同じようにゴムを足の外側から内側に引っかけ、横にあるポールや机などにくくりつける。この状態で片足立ちしたまま、足を内側に引き寄せる (10回×10セット)
これらに加えて、ソケイ部のストレッチングを入念に行うといいだろう。
リハビリメニューの効果が出てきたら、エアロバイク、プールでのウォーキング、ウォーキングなど負荷の低いトレーニングへと移行する。
痛みが引いてきたら、少しずつボールを使った練習を再開させていい。最初は短い距離のインサイドキックからスタートする。いきなりインステップキックやカーブをかけたフリーキックをけるのは厳禁。こういう練習は絶対に避けるべきだ。対人プレーも痛みのあるうちはやらないほうがいい。
症状が改善しても、ゴムを使ったリハビリトレーニングは継続するべきである。これらは内転筋の強化やケガ予防にもつながるからだ。股関節が固いだけでも円転筋痛になりやすいといわれる。そういう傾向のある選手は、より入念にストレッチを行わなければならない。
●まずドクターによく聞くこと〈腰痛〉
腰痛には「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰椎分離症」など選手生命に関わる障害もある。これはまれなケースだが、ドクターにしっかり判断を仰ぐことが大切である。一般に多いのは「疲労性腰痛」だ。これは1〜2週間で痛みが消えることが多い。もしも3〜4週間たって痛みが引かないようなら、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎分離症という場合もありうるから、ドクターに相談し、精密な検査が必要である。ここでは、最も一般に多い「疲労性腰痛」について説明していくことにする。
この障害は、過度のシュート練習や腰部に負担のかかるトレーニングなどで起きる。
痛みが発生したら、次のような腰痛専門のエクササイズを行うようにする。
@両ヒザを抱えてグッと体を引き込む。
A両足を抱え込んで体を引き込み、前後にゴロリと転がる。これによって、接地している腰部がマッサージされる (写真2)。
B片足を抱えながらグッと体を引き込み、背中を地面に着けて前後にゴロリと転がる (写真3)。
C足を組み、下側になった足を抱え込む。これによって、上側の足の後部を伸ばすことができる(写真4)。
D両足を揃えて座り、背筋を伸ばしながら前屈する (写真5)。
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写真2 |
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写真4 |
写真5 |
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これらに加えて、体全体のストレッチもじっくりと行うことが大事だ。腰痛は腹筋と背筋のバランスが悪いために起こることがある。だからこそ腹筋・背筋の強化も欠かせない。大でん筋が弱い人が腰痛に悩むケースも少なくないという。
いずれにしても、日頃からスクワットなどを行って、体幹の筋力アップをすることが非常に大切なのだ。
●症状を明確にしてから始める〈骨折〉
骨折には数多くの種類がある。サッカー選手の場合は、中足骨骨折、すなわち、足の甲を痛める症例が多い。これらは、スパイクの軽量化で芝生の負担をじかに受けるようになったことで発生がふえたという説もある。芝のグラウンドを使い始める年頃の選手は、特に注意が必要だろう。
治療を始めるに当たって大事なのは、ドクターの診察を受け、レントゲンやMRIで状態を逐一チェックすること。ギブスをつける必要があるものか否かで復帰時期は大きく変わる。骨折箇所によって手術を行わなければならないものがある。症状を明確にすることが肝要なのだ。
下肢の骨折であれば、患部に負担をかけないようなトレーニングからスタートすることになる。初期の段階ではエアロバイクやプールトレーニングがいいだろう。
上肢の骨折は箇所によってトレーニングも変化する。左腕の骨折なら右腕のエクササイズはOKだし、ランニングも振動しない程度なら行ってもいい。手首の骨折なら全体練習に合流してもかまわない。いずれの場合も、接触プレーのあるトレーニングは避けなければならない。一方で「疲労骨折」というやっかいなものもある。サッカーでは前脛骨(スネの骨)の疲労骨折が最も多い。また、ジョーンズ骨折といい、第五中足骨の疲労骨折も比較的多く見られる。日々の練習の積み重ねで、いつの間にか痛みが出てしまう。我慢して練習を続けていると確実に治りも遅くなる。
こういった状況を回避するには、指導者が協力して、早期発見できる空気を作ることが大事。選手のメンタル面を含めたケアも欠かせない。特に思春期の選手は物事を短期的にとらえがち。疲労骨折になったら「選手生命の危機」だとネガティブに考える選手がいても不思議ではない。そういう選手を温かく見守りながら、治療に専念させるような配慮が必要だろう。
治療中は、患部に負担をかけない部分からトレーニングをスタートさせる。ベンチプレスなどもいいだろう。それほど負荷を大きくせず、正確なフォームで10〜15回をしっかり行えるようにしたいもの。ベンチプレスのあとには上腕や三角筋などを鍛えるトレーニングを組み入れる。一口で「上半身」といっても多面的に鍛えなければならない。
ドクターの診断でOKが出れば、3週間くらいでプールトレーニングを始められる。それまではどの選手も「我慢」を強いられるが、腹筋・背筋を鍛えたり、メディシンボールを使ったエクササイズで体全体を強化するべきだ。
ケガをした選手が「貴重な体づくりの時間を得た」と考えられれば、苦しいリハビリも充実した時間にすることができる。危険のない艶囲で練習に工夫を加えれば、選手たちもあきないで楽しく取り組める。指導者にはそんな配慮も必要ではないか。
どんなケガでも、リハビリトレーニングの初期は、体を大きく動かさないものからスタートさせることが大事。痛みが引いてきた段階で軽い負荷をかけ、ドクターの定期的な診断を受けて徐々に患部を動かしていくこと。プールでのウォーキングからグラウンドでの練習へ、あるいは直線的なものから曲線的なものへとレベルアップさせていく。
ジャンプは最終段階だ。これをこなせるようになれば、全体トレーニングヘの合流は間近かと考えていいだろう。
どんなトレーニングでもやり方は一つではない。たとえば、ゴムを使った内転筋強化のメニューにしても、ゴムを2重巻きにしたり、太いゴムを使うなど、工夫を凝らせば負荷を変えられる。ケガをしている選手にムリをさせない範囲で設定を柔軟に変化させることも、いいリハビリトレーニングにつながるはずだ。
出典 「SoccerClinic2002年3月号」より